ガンッ!!

「いってぇッ!!」

急に頭に激痛が走る。
鈍い音が脳髄に響き渡り、さらに痛みを増す。
涙の滲む視界の先にいたのは、松浦だった。
細長の目を軽く開いて、本多を見下ろしていた。

「何やってんだ、本多・・・」

しかしそれはすぐに呆れたような表情に変わり、
はぁ、と溜息をついて本多の頭に手をかけさする。

「うぅぅー、いてぇ・・・」

本多はちらっと眼だけで頭の上を見た。
どうやらベットの縁に前頭部をぶつけたらしい。

「何かお前、うなされてたみたいだけど。何の夢を見てたんだ?」
「え」

思い出した途端、顔が赤く火照った。
松浦が・・・あんな姿で。
今になるとニヤニヤと頬が緩むのを止められない。

「・・・・本多?」
「ん、あ、なんでもねぇよ!はは」

すぐに睨みつけるように怪訝そうな視線が飛んでくるが、
(言える訳がないな・・・)と呟きそうになったのをぐっと堪えて飲み込んだ。
諦めたのか、松浦はそっと立ち上がると、猫のような動きで着替え始めた。

「今日、お前の誕生日だろ?俺、早く帰ってくるから」
「おー・・・そういえば今日、俺の誕生日か・・・」
「何だ、忘れてたのか?」

それよりも重大な事が眠っている間に頭の中で起こっていた為・・・・
忘れていた、というより考えてなかったという所か。

「それを忘れてたって言うんだろ」
「ちょ、松浦、お前人の心を読むなよ」

目を細めて笑う松浦は、いつもより幼く見えた。
そしてゆっくりと本多に近づき、ちゅっと触れるだけの軽いキスをした。

「ん・・・」

松浦自身から零れた鼻にかかったような声は、酷く甘く官能的だった。
離れようとする松浦の首を逞しい腕で引き戻し、口内に舌を差し入れる。
待ち構えていたように松浦も舌を動かす。
たまに零れる甘い吐息に煽られる。

「やべ・・・ん、俺、止まんねえかも・・・ふ・・」
「な、に・・・・んぅ、言って・・・・俺、仕事・・・・ぁ、・・・っ」

松浦は心底馬鹿だ、と思った。自分も本多も。
恋人の誕生日にオフを取るくらい、簡単にやってのける様な自分も、
数日前にそれを伝えたのに忘れてる目の前の男も馬鹿だ。
一瞬唇が離れた隙を狙って、本多の耳元でささやく。

「・・・・・今日くらいは、お前の好きにしていいよ。誕生日おめでとう、本多」